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青虫ラーメン〜珍保長太郎の華麗な冒険〜


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[小説]青虫ラーメン〜珍保長太郎の華麗な冒険〜

●解説文
東京の代田橋で、とてもまずいラーメン屋を営んでいる珍保長太郎、50歳目前のさえない大男である。店には味覚の腐った自称グルメ評論家の豚野餌吉、吸血鬼の疑いのある美女のオッパイデカ子が常連として通っていた。

この店には地元の凶悪な暴力団員のヤクザ悪左衛門がよく嫌がらせに来ていた。そのヤクザ悪左衛門はある日、野菜ラーメンを注文した。すると、たまたま青虫が野菜ラーメンに入っているのが見つかってしまった。激怒するヤクザ悪左衛門に包丁で刺されて、豚野餌吉は死亡、珍保長太郎も重傷を負う。

退院した珍保長太郎をオッパイデカ子は、かいがいしく看護して、まんまと押し掛け女房になってしまう。それで幸せになるかと思いきや、オッパイデカ子は夜な夜な珍保長太郎の血を吸い苦しめる。

ところで指名手配になったヤクザ悪左衛門は二人を逆恨みし誘拐、オッパイデカ子に大量のシャブを射ち廃人にしてしまう。怒りに燃えた珍保長太郎の孤独な復讐が始まる!

ジャンル:ホラー小説
ページ数:141P(400字詰め原稿用紙換算)
56,471文字
著者:神田森莉
発行:ハムスター商事(Hamster Books)

『続きを見る』で最初のほうの部分が読めます。

ハムスター

『青虫ラーメン』

〜珍保長太郎の華麗な冒険・いいから0.5秒で死ね〜

「しかしまあ、もうちょっとましなラーメンが作れないもんかな……」

珍保長太郎は自分の店『ラーメン珍長』で独り言を言った。思っていることが口から漏れてしまう癖があるのだ。

「自分で言うのもあれだが、ひどい味だな。下水のたまり水を煮てミミズを麺のかわりに入れたら、こういう味になるのではないか」

ラーメンを食ってる客の前で、余計なことを言う珍保長太郎。もちろん本名ではない。自分の心の中で自らをこう呼んでいるのである。なぜかというと、チンポが長いからである。それくらいしか長所がないと言っても過言ではない。チンポが長いというのを長所と言うならばだが。

「なにをおっしゃいますか、店長!こんなうまいラーメンを私は食べたことがありませんよ。私はたいへんにお気に入りです」と言ったのは、客の豚のように太った男。珍保長太郎は心の中でこのいきものを『豚野餌吉』と呼んでいた。このような豚に人間の名前を与える人権は必要はないと珍保長太郎は、顔を見るたびに思っていた。

「失礼ながらお客さんは舌が腐ってるのではありませんか」

慇懃無礼に珍保長太郎が言う。

ぶひっ!

豚野餌吉がひと声、鳴いた。……と思ったが、たんに鼻息を荒くした音だったようだ。

「いえいえ、こう見えても私、関東中のうまいラーメン屋を食べ歩いて来ました。食通と言っても過言ではありません。ほんとはちょっとグルメ評論家を目指しているんですよ。Facebookではラーメン食べ歩きの記事ばかりです。店長も見に来てイイネ!を押してくださいよ」

「最低のくずである」

珍保長太郎は、いつもの癖でつい思ったことがそのまま口から出てしまった。あわててもごもごと語尾を濁す。

「えっ、なにか、おっしゃいましたか」

少し疑惑のまなざしで珍保長太郎を見る豚野餌吉。しかし、そこはやはり脳みそが豚なので、飲食店の店長がそんなひどい直球なことを言うわけがないという先入観から、なにかの聞き違えだろうと決めつけた。ほんとうに直球だったのだが。

「いえ、なんでもありません。Facebookどころかネットはほとんどやりませんね」 と嘘をつく珍保長太郎。ほんとうはパソコン通信時代からのヘビーユーザーなのだが、この豚と『店と客』以上の関係になるくらいなら、店に火をつけた方がましだったので、そう答えた。ほんとうは珍保長太郎は豚野餌吉のFacebookのページを見るたびにスパム報告をしているのだが、残念ながらなかなかアカウント停止にはいたらなかった。

「ああ、それは残念ですね。今はネット時代ですからブログを作って宣伝するのは飲食店では常識ですよ。せっかくにビジネスチャンスを逃しているなあ」と残念そうにいう豚野餌吉。珍保長太郎はキャベツを切っていたので、思わずその包丁をこの豚の脳天に突き立てたくなったが、舌を噛み切ってこらえた。

たら〜。

「店長、気のせいか口から血が出てますが」と豚。

「前歯の歯並びが悪いのでよく舌を噛んでしまうのですよ」

「ああ、そうですか」

ところで青虫である。モンシロチョウやモンキチョウの幼虫である。どちらもキャベツ畑によくいる。他にはスジグロシロチョウというシロなんだかクロなんだか、はっきりしろよと怒鳴りたくなるような蝶もいるが、どれも似ていて少しずつ違っている。親が少し違うのだから幼虫もそれぞれ少しずつ違うのだが、どれも青虫と呼ばれている。

豚野餌吉を人間の名前で呼ぶ必然性がないのと同じで、青虫はどれも青虫でいいじゃないか、と珍保長太郎は思う。その人権感覚の乏しい小虫が生板の上を這っていた。キャベツに付いていたのである。この青虫をはしでつまんで、いきなり奇声とともに豚野餌吉の鼻の穴に突っ込んだら、さぞや、気分がせいせいすることだろうな、と珍保長太郎は思ったが、10分くらい考えてから、そのへんに捨てた。

あんがい、心が優しいのである。なさけない性格と言ってもいいのかもしれない。どうも、こういう小さな生き物の命を殺すことが出来ない。豚野餌吉のような大きな動物なら、法律と警察がこの世になければ、0,5秒で喜びながら殺すのに、と珍保長太郎は思った。まったく不思議なのは人間の心である。

ところで、青虫の命を守ったにしても、そこらに捨てるのはどうなのか。ラーメンスープの中に入ったり、はい回って客席にあいさつに行くかもしれないではないか。しかし、珍保長太郎はその点にはまったく無関心だった。どうでもよかったのである。

豚野餌吉がラーメンを食って出て行った。

「どうでもいい。俺の人生、もうどうでもいい」

珍保長太郎が死んだサバのような目で言った。年齢は50代目前。無駄に大男である。ガタイが良いので自衛隊にいたこともあったが、あまり体育会系ではなかったので軍隊には向いてなかった。その他には、ビデオ屋の店員などをしていたのだが、自衛隊時代からの貯金をはたいて、ラーメン屋を始めたのが10年前。場所は家賃が安いから代田橋にした。

ところがやってみたら、まったく向いてなかったのである。自分では料理好きなつもりでいたのだが、味覚音痴だったのである。それでも最初は、いっしょけんめい、アジ節やらサバ節やら、果ては鮭のニボシである鮭節なるものまで手を出して、いろいろ工夫してたのだが、なんと驚くべきことにやればやるほどまずくなって行くのである。

これには驚いたな、珍保長太郎は不潔な散らかった厨房を見ながら、つぶやいた。それからは余計なことするのをやめて、たんに業務用のスープをお湯でといだのに、できあいの麺を入れて出すことにした。おかげで最悪にまずい店ではなくなり、ふつうにまずい店くらいにはなった。

店を閉めることも考えたが、貯金は使い果たしてしまったし、いまさら、別な人生を考えることもおっくうだった。というか、なにをしたらいいか、なにができるのか、よくわからない。

それでもつぶれなかったのは、代田橋近辺は家賃が安かったからである。こんな感じで10年がすぎて、いよいよ、第二の人生とか、再出発とか、そういう前向きな行動をする気力がなくなってきた。

「こうやって、不完全なまま、人はみな死んで行くのであろう……」

孤独な厨房の奥で包丁を振り回しながら、珍保長太郎はつぶやいた。ゴキブリが聞いていたが、無視することにしたようだ。

[小説]青虫ラーメン〜珍保長太郎の華麗な冒険〜

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