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・昆虫採集家

 老人ホーム『天国の門』。東松原の住宅地の中にある。死に行く人々がつかの間の時間つぶしをしている待合室のような場所だ。その裏は緑豊かな児童公園になっていた。公衆トイレと鉄棒、それとベンチと大きな木々の茂みがある。
 珍保長太郎は毎日、その公園から老人ホームのミザリーの動向を見張っていたが、夕方になると近所の保育園から保母に連れられた子供らが遊びに来るのがわかった。薄汚い身なりのおっさんが双眼鏡を手に立っていたら、いかにも怪しい。怪しい前に本人が恥ずかしい。
 どうしたものかと思ったが、木の上に登って見張ることにした。これが案外、都合がいい。この季節、木々は豊かに葉っぱが生い茂り、下からは樹上の珍保長太郎の姿は覆い隠されてしまう。
 木の上からは天国の門のいくつかの部屋の中が見えた。暇そうに子供のやるようなお遊戯をやらされている老人たち、大画面テレビでDVDを見ている老人たち。それと世話をするキャリーやミザリーなど介護士たちの姿。
「おそらくミザリーがウンコキラーに違いない……。あの女はあきらかに反社会的な気質の異常性格者だ。同じく異常性格者である俺が言うんだから間違いはない。この手の異常者は犯行で気を使う。おそらく、男の犯行であるように見せかけて、捜査をかく乱するつもりなのだろう。または、ミザリーがほんとうは男である可能性もある。歪んだ性欲が異常な発散を求めることはよくある話だ」珍保長太郎はザルのような推理を展開した。暇だったからである。「連続殺人鬼は性欲をがまんできない。見張っていれば、いずれまた行動を起こす時が来るだろう……そこを捕まえてやる」
 だが、ミザリーは意外と問題行動を起こさなかった。大原稲荷神社の殺人現場に趣味の悪いリボンを落としたことに気がついて、行動を控えているのかもしれない。そうなると長期戦になる。場合によっては何年も……。ほとぼりが冷めるまでは何年でも待ち、自分の身が安全とわかってから犯行を再開する連続殺人鬼も多い。
 また、思ったよりミザリーが老人を虐待していないのがわかった。ラーメンを配達するたびに虐待を見かけていたものだが、もしかして、たまたま気が立っている時に出くわしたのかもしれない。腹が空いてイライラしていただけなのだろうか? こちらも警察に目をつけられないように行動を控えただけかもしれないが……。
 一日のスケジュールはこうだ。朝早く出かけて行って木の上に登る。珍保長太郎は日がな一日、セミの声に囲まれて木の上で見張っていると、だんだん自分がセミになった気分がしてきた。夜の10時くらいになると、宿直の当番を残して、ミザリーら介護士たちが老人ホームを出てくる。珍保長太郎は近所のマンションに帰るミザリーの後をつけて部屋に入るのを見届けてから自分もラーメン屋の屋根裏に帰った。
 「うひょうひょ」
 ある日のこと、木の上で珍保長太郎が変質者のような声を出した。変質者が変質者のような声を出してるのだから、そのままである。キャリーこと小杉浩子が着替えをしている姿を目撃してしまったのである。見事な貧乳だった。
「おっぱい、ボインボイン」
気持ち悪いことを、つぶやく珍保長太郎。ほとんどボインとは言い難いサイズなので、同時にウソツキでもある。必死に双眼鏡をワニのような目つきでのぞいているうちに、陰茎が勃起してきた。葉っぱのよく茂った木の枝の上なので、周りからはほとんど見えない。珍保長太郎は安心してチンポコを出して、こすりはじめた。
「ワンツーオナニー!ワンツーオナニー!」
 珍保長太郎は、掛け声を出しながらではないとイケないたちだった。人それぞれ、意外な性癖をもっているものである。家の中でマスターベーションをしてるような気持ちで、安心して登りつめる珍保長太郎。いきおいよく射精した。ドピューッ!ドロドロッ! 汚くて臭い。汚くて臭い。
「この季節、上から水分が落ちてきたら、それはセミのおしっこだと思うことだろう。だが、それは俺の精液だ」珍保長太郎はどうでも良いことをつぶやいて、満足感を味わった。ところが、意外なことに足元のすぐ下のあたりで悲鳴があがった。
「ぎゃっ」
 嫌な予感がして下を見ると、顔面に精液をかけられた若者が、こっちを見上げていた。ベストを着て捕虫網やら虫かごやらを持っているから昆虫採集家だろう。彼は目を丸くして珍保長太郎を見上げている。こっちだって目を丸くしている。驚いてるのはお互い様だ。
「驚いたな、昆虫採集家とは……。この世にこんな人種がまだ存在していたとは。しかも、それがたまたまマスターベーションをしている俺がいる木を登ってくるとは。しかも、射精する瞬間を狙って」
「あうあううう」情けない声を出す昆虫採集家。なにか説明する必要性を感じたのだろう。「お楽しみをじゃまするつもりはなかったのですが、この木はクヌギかコナラです。良い樹液がたくさん出るので美しい甲虫が集まってくるのです」
「しかし、出たのは樹液ではなく精液だったということだな」意味のない発言をする珍保長太郎。逃亡生活で風呂に入らず臭い上に、追い詰められて目が血走っている。そんな不審な人物に、木を登ったら、たまたま出くわしてしまったのである。昆虫採集家は心の底から恐怖を覚えた。
「おしっこが漏れそうです……」彼は蚊の鳴くような声で言った。その気の弱そうな学生時代は確実にイジメられていただろうという顔を見ていたら、珍保長太郎はやみくもな怒りを感じてきた。
「よし、殺そうッ!」
「ひっ!」
 頭上の臭い大男が、ぶっそうなことを言い始めたので、昆虫採集家は絶望のあまり悲鳴をあげた。驚いて息を吸ったので、顔射されていた精液が口の中に入り、飲み込んでしまった。地獄に違いない。ニヤニヤ笑う顔色の悪いキリストが待っているぞ。液体はセロリのような味がした。
「汚くて臭いッ!汚くて臭いッ!」昆虫採集家は泣いてわめき出した。これはいかん。近所の人が駆けつけてくる。珍保長太郎はいっさいの憐れみも覚えずに、懐からサバイバルナイフを出して、全力で下にいる昆虫採集家の顔面に突き立てた。
 ブスリ!
 小気味の良い音がした。ナイフは鼻の穴あたりから突き刺さり、後頭部から刃先が少し飛び出した。いい気持ちである。快感が背筋を通って、天の神の足元まで届いた。おそらく、ミザリーも同じような快楽を求めて連続殺人をやめられないのだろう。同じ仲間である。
 ガサッ!ガサガサガサッ!ボキッ!ボキッ!
 葉っぱを撒き散らし、木の枝を折りながら、墜落していく昆虫採集家。
 ドサッ!
 死体が地面に落ちるような音がした。珍保長太郎は木を降りて死に様を見物に行った。瀕死だが、まだ息がある。
「チッ!」本当に悔しそうに珍保長太郎は舌打ちをした。「まだ生きてけつかる……」
 公園に人が来ると困るので、珍保長太郎はちょっと苦労して、半死の昆虫採集家の身体を樹上に引きずり上げた。抵抗はしないが、だらんとしてるので重い。それから、先が折れている木の枝があったので、その鋭く尖った先端に身体を突き刺した。
 プルプルプル。
 昆虫採集家は、少しの間、ゼリーが揺れるように身体を震わせた。それから、かろうじて残っていた魂が、身体に見切りをつけて、天国に旅立っていた。
「さようなら。来世では虫に生まれ変わって幸せになれるといいな」珍保長太郎は昆虫採集家の魂に祝福を送った。「はやにえだ。秋になり葉っぱが落ちると、木の上の高いこづえに突き刺さってミイラになった彼が見つかる。さぞや、驚かれることだろう。楽しみだな」珍保長太郎は自分の仕事を満足して見つめた。反省は少しもない。
「自分は連続殺人事件の犯人を探しているのである。犯人が捕まれば、今後殺されるはずだった人々の尊い命がいくつも助かるだろう……。その目的のためにならば、関係のない人間を数人殺すくらいは、誤差と言ってもいいくらいである。むしろ、コスパが良い、と褒められて頭をなでられてもおかしくはないくらいだ」珍保長太郎の中に矛盾は存在しなかった。まっすぐな魂の人間だったからである。
 珍保長太郎は、それからようやく、先の濡れたチンポコをハンカチで拭いてズボンにしまった。いままで、ずっと出ていたのである。


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・逃亡者

「……ですから、私は一週間も店長の顔を見ていませんし、給料が払われる予定もないし、ほんとうに困っているのです。あのひと、ちょっとほら……。頭おかしいですよね? やっぱりやったなあ、という感じですよ。まったく、ひとかけらの同情もわきません。ウジ虫のようなものですよね。ここだけの話ですが、あの人……チンチンが長いのだけが自慢なんですよ!うへぇ!最低の人間ですよね?」と、愚痴をこぼしているのがわれらが珍保長太郎の手下のバカこと新実大介。ラーメン珍長に北沢署から刑事青赤がまた来ているのである。ウンコキラーの新たなる犠牲者が見つかったとかなんとか。
「はあ、そうですかね? 私の見たところでは、あなたは店長をグルのように崇拝しているように見えましたけどね? 尊師みたいだな……とあなた方の関係を見て思いましたよ。尊師ってわかりますか? あれですよ、麻原彰晃。私は地下鉄サリン事件の時は、捜査本部にかり出されていましたからね。あれ以来、弟子みたい人が言うことは一切、信用しないようにしているんです。あんた、ほんとはウソをついて、かばっているんじゃないか?」刑事青が不審な目でバカを見つめる。バカは不快な気分になり、真正面から警察官の目を見て言った。
「いいえ、神に誓ってウソは申しておりません。クズはクズ。犯罪は犯罪です。必要とあれば、いくらでも店長の顔写真を足で踏みつけて見せましょう。ニヤニヤ笑いながら、上で踊って見せますよ」と断言するバカ。
「では、また確認しますが、店長からはまったく連絡は来ないし、顔も見ていないと断言するのですね? 犯人をかばうと偽証罪で刑務所に入れられますが、それでも構わないと、おたくは言うのですか」
「もちろんですとも」キッパリと言い切るバカ。「ところでお二方、ラーメンを食べて行きませんか。店長がいない間、給料が出るあてがないので、自分で勝手に作って出してるんですが、店長が作るよりはるかにうまいと好評ですよ。店長をバカにするわけではないですが、あの人、料理下手ですからね」
 刑事青赤はどうしたものかと顔を見合わせたが、ちょうど腹が減っていたのでここで食っていくことにした。
「では、いただこうか」
「へーい」

 意外とふつうにうまいラーメンだったので、満足して出ていく刑事青赤。にこやかに店の前に出て見送るバカ。刑事青赤が代田橋商店街を進み、角を曲がって見えなくなると急に厳しい顔に変わる。彼らが自分を騙しこっそりと戻ってこないか、しばらく待つ。珍保長太郎のザルのようなおおざっぱな性格と違い、バカは用心深い。
 これなら大丈夫と判断してから店内に戻り、戸に鍵をかけて『休憩中』のふだをぶらさげる。バカはカーテンを閉めて二階に上がった。ラーメン珍長の二階は物置に使うような場所だったが、珍保長太郎は金がないので賃貸規則をやぶって、ここに寝泊まりしていた。ろくな家具もない部屋に、不潔な布団と収納家具代わりのダンボール箱が置いてある。だが、今日は二階には珍保長太郎の姿は見えない。
 バカはさらに踏み台を出して天井裏に入る戸を開けた。電気工事の人などが、配線工事をするための入り口である。中からホコリと蜘蛛の巣にまみれた珍保長太郎が出てきた。
「きさま、俺をそんな風に思っていたのか。いかにも人を殺してもおかしくない狂人と言ったな……」機嫌が悪い珍保長太郎を見て、バカはギョッとした。
「えっ……、店長。どうしてそんなことまで聞こえるんで?」
「いいか、ここに配管があるだろう。電話線やらLANケーブルなどを通すための管だ。これが一階の厨房の脇まで伸びている。この管に耳を当てていると、お前が俺の悪口を言ってるのがぜんぶ聞こえるという寸法だ……」
「げげげげげッ!」うろたえるバカ。安心しきって、日常の不満をぜんぶ言ってしまったらしい。
「しかし、店長。そんなスパイのようなまねをしている時ではないですよ。本当に危険がせまっています。やばいですよ。刑事たちが言っていたことを聞いたでしょう。かんぜんに犯人扱いですよ。いちおう『犯人扱い』と言っておきますが、ほんとうにやってないんでしょうね?」たくみに話題をそらすバカ。卑怯な人間なので、頭がこずるいのである。もちろん、珍保長太郎はかんたんに策略に引っかかり、別なことを考え始めた。
「もちろん、やっていないとも! 俺がじつは夢遊病で知らん間に女の口にウンコをつめて回ってるのではない限り!」自信をもって断言する珍保長太郎。
「まあ、ほんとうはやっていても私はかまわないんですけどね。いかにも、やりそうな感じですからね。それはともかく、店長、臭いですよ! 糞尿垂れ流しでしょう。とうぜん、一週間も風呂に入っていないでしょう。これじゃあ姿は隠れていても、匂いで見つかってしまいますよ」
「とはいえ、銭湯に行くわけにはいかない。ウンコはバケツに出して、たまったら人がいない時を見計らって、下の便所に捨てているが、それでも生のウンコがそばにあるんだから、臭いことはこのうえもないな」
「ああ、臭い臭い……」鼻をつまんで店長の周りを回るバカ。バカのくせに神経質なので、悪臭にはがまんができないのである。さいわいに、ここはラーメン屋なので巨大な鍋があった。それでお湯を沸かして、珍保長太郎は入ることにした。
「50男のスープだな」食欲をなくすようなことを言う珍保長太郎。とくにコメントは浮かばなかったので、バカは聞こえないふりをした。
「一週間隠れていたが、このまま天井裏で10年間、隠れ住んだのちに病死してホコリと一体化してしまうのも酔狂でいいかもしれないが、そうも言っていられないので、どうにかしなくてはならない」頭の中で考えていることがそのまま口に出てしまう珍保長太郎。近代化以前の日本人と同じく、頭の中だけで思考することができないのである。
「でも、どうするんです。店長」
「犯人を見つける」
 または、別な誰かを犯人に仕立て上げるという手もあるな……、と珍保長太郎は思いついて、さりげなくバカの横顔を見た。こいつは、いつ死刑になって死んでもまったくおしくない人間だ。だが、あまりヒントをあたえて警戒されては困るので、珍保長太郎は目をそらして、なにも考えていないふりをした。
 動物のように神経の鋭いところがあるバカは、にわかに背筋に冷たいものが走るのを感じて、店長の顔を見た。注視していると、わざとらしく視線をそらした。バカは不安になったので、夜道と背後には気をつけようと、心の片隅にメモをした。

 夜になった。出歩いても大丈夫だろうと判断して、珍保長太郎は業務用自転車『チンポ号』に乗って走り出した。刑事青赤が心配だが、やみくもにばったりと犯人にでくわすことを期待して、24時間、代田橋をうろついているわけではあるまい。交番の前を通る時は気をつけたほうがいいかもしれないが、道端で職務質問されない限り大丈夫だろうとふんだ。
 お巡りに見つかって職務質問された時の用心に、珍保長太郎は懐にナイフをしのばせていた。相手が一人なら殺してしまえばなにも問題はない。暗闇の中で珍保長太郎は悪魔のように笑った。黒い猫が道路を横切る。
「とりあえず老人ホーム『天国の門』に行くか。ミザリーのものらしいリボンが現場に落ちていたからな。だがしかし、リボンを突きつけても自供をしたりはしないだろうな。どうしたものか……」旧式の重たい自転車に乗って、ブツブツ言いながら走っている大柄な中年男。いかにも怪しい。しかも、ふところにはナイフ。いつでも警察官を殺す覚悟はできている。その目が狂気で光った。


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・自由に向かって走れ

 深夜の代田橋である。キーコ、キーコと珍保長太郎は愛用の業務用自転車、チンポ号を走らせていた。運動である。中年になってから珍保長太郎は急に太り出してきた。もともと、大飯食らいの上に毎日、大量に売れ残っている背脂がコテコテしたラーメンを食っている。デブになって当然である。
 これが20代ならば、背脂が筋肉に変わることもあろうが、中年になったならば背脂はそのまま腹脂に変わってしまう。たんに移動するだけである。これではいけない、と珍保長太郎は深夜に仕事が終わってから、二時間、業務用自転車で走ることにしていた。もともと、重い上に整備が悪いのでチンポ号を走らせるのは、かなりの重労働だった。運動という意味ではちょうど良い。
「オマンコしてえな」無意識に思ってることが口に出てしまう珍保長太郎。
「肛門がかゆいな」異常人格者とはいえ、ろくなことを言わない。
「いかん、ウンコがしたい」珍保長太郎はちょっと深刻な顔になった。このへんは荒れ果てた貧民街である。だから、珍保長太郎のようないいかげんなラーメン屋でも、家賃が安いからやっていけるのであるが、そのかわりトイレがない。これは貧乏人しか住んでいないので、税金があまり取れないせいである。そのために区の方で公共施設にかけるお金がないので、公衆トイレがどこにもない、という事態になっているのだ。
「ウンコががまんできない……」珍保長太郎は小学生の時に二回ウンコを漏らした体験がある。今でもたいへんなトラウマになっている。カッとなってすぐに人を殺したりするのも、教室でウンコを漏らした悲しみが原因ではないだろうか。
「怖い……。ウンコを漏らすのが怖い」小学生ならまだしも、中年のおっさんが道端でウンコを漏らしたら、あまりにも救いがなさすぎる。まさに地獄のようだ。地獄がお前を待っているぞ。ニョキ。肛門の穴からサツマイモの先のようなものがすこし顔を出す。
「いかん、しゃれにならない。絶体絶命だ」大原稲荷神社にさしかかった。陰気で暗い。神社なのにすこしも聖なる感じはしなくて低俗で下品。悪霊のすみかのような不吉で不潔な場所なのであるが、珍保長太郎にとっては幸いなことに、そのおかげで深夜はあまりひとけがない。
 キキッ。業務用自転車を止めて真っ暗な境内に入っていく。神経がないので、とくに霊などを怖がることはない。
「どこかにウンコをしても怒られないような場所はないか?」珍保長太郎は広い敷地を見渡す。でも、暗いのでなにも見えない。
「よくわからないが、とりあえず、一番奥まで行って出せばいいのではないか?」ということで、どんどん奥に進む。奥の方は墓場になっていた。悪霊神社のどんづまり。いかにも、行き場を失った怨霊や水子の霊が、吹き溜まっていそうなところである。湿っぽくてじめじめと臭い。腐った沼のような臭いがする。通常の神経の人間ならば、ためらうところであろうが、珍保長太郎はとくに感銘をうけたようすはなく、茂みの陰でしゃがんで尻を出した。
 むりむりむりむり。
「ふーっ。ごくらくごくらく」困難を乗り越えてすっきりした顔をする珍保長太郎。機嫌がいいようだ。だが、その直後に地獄が待ち構えていた。
「いや待て。紙がない」みるみるうちに青くなる珍保長太郎。「こまった。これではパンツがウンコだらけになる。こういう時に限って、ねばりっこい切れの悪いウンコだ。あきらかに直腸の中にまだ切れ端が残っている。このまま自転車に乗ったら、圧力で腸内のウンコが押し出されてしまい、パンツがさらにウンコだらけになってしまうであろう……。なんと恐ろしいことか……」絶望する珍保長太郎。なんとか被害を最小限に止めようと、そこらの葉っぱで拭こうと考えた。
 暗闇の中に手を伸ばすが、あたりにはあまり大きな葉っぱが見つからない。さらにゴソゴソと地面を引っ掻き回していたら……

 髪の毛の塊のようなものに手が当たった……

「ぎゃっ」思わず小さな悲鳴をあげる珍保長太郎。肛門の先から数センチのウンコを突き出したまま、さらにおしっこを漏らしてしまった。これ以上の地獄は世界ではあまり例を見ない。ちょっと硬直した。
 それにしても髪の毛である。やばい。なんだろうか。だが、こういう時、人間の心は勝手に恐怖と幻想を作り出すものだ。正体がわかれば、な〜んだ、という笑い話になるのでなかろうか?
 そこで珍保長太郎は恐怖をこらえて髪の毛の塊のようなものにふたたび手を伸ばした。その時、月の光が運命のように差し込んで茂みの中を照らした。顔中ウンコにまみれた女の死体だった。
「ウンコキラーの犠牲者……」直球すぎる。死体のようなものかと思ったら、そのまま死体だった。ふいに枯葉を踏む足音が聞こえた。
「わん!わん!わん!わん!わん!わん!」
 見ると犬を連れた近所のおっさんが入ってきた。懐中電灯で珍保長太郎を照らす……。その明かりが照らし出したものとは、ウンコを口に詰められて死んでいる髪の長い女の死体と、ケツからすこしウンコを出してしゃがんでいる目つきの悪い中年男である。いかん、ぜったいぜつめいに俺、怪しすぎる!
「人殺し〜ッ!」絶叫する近所のおっさん。もっともな反応である。いっそ、このおっさんと愛犬を殺してしまえば、窮地から逃れられると短絡的なことが頭に浮かんだ珍保長太郎だが、それでは余計に窮地に追い込まれると寸前で思いつき却下。代わりに全力でおっさんを突き飛ばした。
「死ねッ!」つい習慣で余計なことを口走ってしまう珍保長太郎。これでは『私が犯人です』と念押ししてるようなものではないか。ゴロンゴロンとボーリングの玉のように転がっていく近所のおっさん。手から落ちた懐中電灯が何かを照らす。
「こ…これは」趣味の悪い大きなリボンが落ちていた。ムラサキ色。こんなリボンをつけるような人間は一人しか思いつかない。しかも、その人物は最近、このリボンをなくしたようだ……。
 ガブッ!犯人の推理をしていた珍保長太郎に、おっさんの愛犬が噛み付く。飼い主に忠実な犬のようである。だが、今の珍保長太郎には、愛犬の献身的な愛情に感動してる余裕はなかった。なさけようしゃなく、ぜんりょくで犬の腹をけとばす。
「キャイーーーーーーーーンッ!」
小型犬だったので20mくらい宙を飛んで行った。落ちてからは鳴き声がしなくなったので、天国に行ったのかもしれない。これでは、殺人罪で告訴されなくても、動物愛護法で有罪になるかもしれない。
「いかん、どんどんドツボにはまっていくぞ。おもしろいくらいに」
 ウンコのちょっとついたリボンを持って、大原稲荷神社の境内を走る珍保長太郎。入り口に止めていた業務用自転車にまたがって、サドルにウンコをこすりつけながら、全力で走り出した。自由に向かって。


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・塩だッ塩をまけッ!鬼は外ッ!

 今年は猛暑なので小便は蒸れてすぐに発酵した。柔らかい白色の調理師用スラックスが、乾いた尿でごわごわになる。自分が臭い。珍保長太郎はズボンを着替えるためにラーメン珍長に戻った。バカがかいがいしく迎える。
「お帰りなさいませ、店長」
 まるで嫁のようである。実に不愉快で腹立たしい。少しでも「臭い」などと言おうものなら、即座に喉をかき切ってやろうと、身構えていたが、バカは少し鼻をクンクンさせただけで余計なことは言わなかった。その代わり、バカは別な爆弾を投下した。
「店長、留守のあいだに警察が来ましたよ。店長が出前でいないとわかると、後でまた来ると言ってました」
 ぎょっ! 不必要なまでに驚く珍保長太郎。ポーカーフェイスとは、ほど遠い性格のようだ。
「お、おれはやっていない……」誰も聞いていないのに、血相を変えて弁明をはじめる珍保長太郎。見ての通り、頭と行動はあまり、まともとは言い難い人物である。おそらく、警察が怪しいと睨んでくわしく調査したら、いくつもの過去の隠された犯罪が浮かび上がってくるのではないか。珍保長太郎は警察ほど苦手なものはこの世になかった。前からパトカーがやってきたら、意味なく横道に曲がって避けるくらい嫌いだった。
「な、なにかやったんですか?」きょとんとしたハゼのような顔でバカがたずねる。
「いや、なんでもない」見るからにうろたえる珍保長太郎。挙動不審である。どう見ても犯人にしか見えない。ハアハアと息を荒くついて、脂汗をだらだら流す。冷静を装っているが、目玉が落ち着きなくメリーゴーランドのようにクルクルと回っている。「なにもやってないと言ってるだろうッ!」だしぬけに怒鳴り出す珍保長太郎。
 バカがびっくりして店長を疑惑の目で見つめている。目の前に警察がいるわけでもないのに、この調子である。もし、警察署に連れて行かれ、本格的に尋問されたらどうなることやら。あることないこと自白して、最近の10年間の東京の未解決事件のぜんぶの犯人にされてしまって、10回くらい死刑判決を受けかねない。しかも、その半分はほんとにやっていそうだ。
「犬め……。いまわしい国家の犬どもめ……」けんのんな形相でブツブツ独り言を言いはじめる珍保長太郎。店長が気持ち悪いことを言い出したので、バカは働いてるふりをしながら、店長から遠いところに少しづつ移動した。
 がらがらがら。店のドアが開いた。入って来たのは目つきの悪い身体のがっしりした男が二人。一人が中年でもう一人は若い。彼らの姿を見て、珍保長太郎の目が狂気で光った。バカが話していた刑事らしい。憎しみのこもった目で二人を睨みつける珍保長太郎。よくわからないが、睨まれてるので睨み返す刑事。しばらく無言で睨み合った。
 彼らは北沢警察署の刑事だと自己紹介をした。中年の方が巡査長の青田剛、もう一人の若い方が、赤井達也で身分は巡査。珍保長太郎はさっそく二人に『刑事青赤』と名付けた。
「我々はウンコキラーの連続殺人事件を捜査しています。ラーメン珍長さんは、この商店街でもう10年も商売をしているそうですね。なにか不審者を見たとか、怪しい人物を知っている、とかいう情報はないでしょうか」青の方がおんけんに質問する。
 だが、珍保長太郎にはそれがまるで蟹工船の小林多喜二を拷問している警官のような口調に聞こえたらしい。きちがいだから仕方がない。店長の顔色がみるみる険しくなっていった。
「ここで10年やっているそうですね……だと? つまり俺の情報を前もって調べたということか。 なんの疑いのない人物の経歴など調べるわけがない。この俺が……」大きく息を吸う珍保長太郎。「容疑者として浮かび上がっているということかッ!?」
 ちょっと驚く刑事青赤。駅前商店街のただのラーメン屋に聞き込みに行ったら、どう見ても殺人鬼にしか見えない人物が出てきたのである。こういう手合いはかえって困る。彼らはすっとぼける犯人を追い詰めるのは慣れているが、全身から犯人です!と主張しているような人物は、どう扱ったらいいかわからない。
「ええと……」絶句する刑事青。
 店長がよくわからないが、いきなり警察に食ってかかってるので、バカは慌てていた。なにかが店長の琴線に触れたのであろう。この店長、尊敬はしているのだが、気が小さいくせに気が短い。バカは手振りで店長を止めようした。だが、珍保長太郎は目玉を充血させて絶叫した。ゴリラのようにうでを振り回す。
「この腐れ犬どもめッ!」
 警察官といえども人間である。こういう態度に出られてむっとしないわけがない。
「お前ッ!後ろめたいことがなんかあるのかッ!」刑事青が珍保長太郎に負けない大声で怒鳴り返した。凶悪な犯人を相手にするのは慣れているのである。ちょっとひるむ珍保長太郎。やはり、気が小さい。「経歴など調べていないッ!商店街で聞き込みをしていて、ここで聞くと良いと言われて来ただけだッ!だが、店長がこういう人物だとわかって俄然興味がわいたよ。どれどれ、名前は珍保長太郎か!」刑事青は壁に貼り付けてある食品衛生責任者の許可証の名前を見て言った。慌てて、珍保長太郎が飛びついて名前を手で隠そうとする。もちろん、すでに読み上げられているのだから手遅れである。ますます怪しい挙動のラーメン店店主を見て、刑事青はつけくわえる。「そういえば、同じく商店街で、あんたが出入りしていた暴走族に大怪我を負わせたという話を小耳に挟んだぜっ! 根っから暴力志向のある人間のようだなッ!きさまはッ!」
「な…なにをッ!」本当のことを言われて、うろたえる珍保長太郎。
「カッとするとなにをしでかすか、わからない人間なんじゃねえのか、お前ッ!」恫喝する刑事青。まったくその通りです、とバカは内心うなずいていたが、命が惜しいので顔には出さないようにした。
「クズはクズだッ!クズを殺してなにが悪いッ!クズを人間扱いする必要はないッ!」どんどん一人で犯人になっていく珍保長太郎。会社では絶対に出世しないタイプである。「もちろん、この『殺して』というのは例えで現実に殺したという話ではないがね!」いちおう、言いつくろったがなんの弁護にもなっていない。
 相当に機嫌が悪くなった刑事青赤。勝手に激怒しはじめた珍保長太郎を、あやしそうにジロジロと見つめる。どうやら、確実に容疑者リストのトップに躍り出たようだ。バカが援護に入る。
「どうも、すみません。てへってへっ。この人、いわゆる『ガンコ店長』ってやつで、気が難しいんですよ。頭の中の配線がどこがどこにつながってるか、さっぱりわからない。すぐに変なスイッチが入る。でも、口は悪いんですが性格はもっと最悪なんですよ。その代わり……」変な間を開けるバカ。「ラーメンの味はもっとまずいんですよ!だから、気にしないでください」なにを言ってるのかわからないが、とりあえず店長をかばってるつもりのようだ。このバカは、世渡りがうまいのか悪いのか、よくわからない。
「また来るからな。こんどはそのまずいというラーメンを食ってやる」捨て台詞を残して出ていく刑事2名。
「塩だッ!塩をまけッ!」珍保長太郎はバッサ、バッサと去っていく刑事の背中に塩を投げつけた。「鬼は外ッ!鬼は外ッ!」混乱してるようで、かなり間違っていた。


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・死にかけ老人

 この世には生きている人間と死んだ人間がいる。死んでいない人間はだいたい生きている場合が多い。だが、中には幽霊でもないのに生と死の中間くらいのポジションを保持しているものもいる。珍保長太郎が『死にかけ老人』と呼んでいる大山田統一郎はその一人だった。年齢は知らないが80は越えていると思われる。
「バイタルチェックのお時間ですよ!このいまいましい死にかけたもうろくジジイッ!」ミザリーこと神保千穂の完全にイライラした怒鳴り声が聞こえた。珍保長太郎は老人ホーム『天国の門』に伸びたラーメンの出前の配達に来て帰ろうとしていた。すると、どこかの部屋から、けんのんな声が聞こえてきた。珍保長太郎は不審に思って裏庭に回って窓から覗いてみることにした。
「ふがふが」死にかけ老人が生きているだけでも苦しくてたまらないという調子で答えた。どうやらこの老人ホームでは、毎日一回、健康チェックをするようだ。部屋の中には臭そうなベッドが4つあるが、老人は死にかけ老人一人しかいなかった。他の三人はすでにミザリーが息の根を止めてしまったのかもしれない。
 こんな人間のクズでも看護師の資格があるのか……。珍保長太郎はいきどおって考えた。大阪の漫才師のような頭を見ているだけで不愉快になる。警察は信用ができない。いっそのこと、自分が正義の使者となり勝手にこのババアを殺したほうが、世のため人のためなのではないか。
「首筋で脈を測りますよ!おや、もうほとんど死んでいるから、脈拍がゆっくりね。しかも、弱い……。これなら、ちょいと血管を止めたら、なにも苦しまないでキュ〜ッと死んで、しかも、自然死と思われてしまうのではないかしら?オホホホホッ!」悪魔のような笑い声をあげるミザリー。今日も頭のリボンはピンク色だった。
「いやじゃあ、わしはまだ死にとうない。死にたくない。たとえ、どんなに弱って虫のようになっても、植物人間になっても、身体中にいろんなパイプや電線をつながれて老醜をさらしても、できるだけ生きていたいんじゃ〜」泣きがなら訴える死にかけ老人。人生をあきらめてはいないようだ。
「なにを言うんだッ!バカものッ!馬の糞!」激怒するミザリー。
「えっ……」どうしてここで怒られないとならないのか理解できない死にかけ老人。
「この世には生きたくても、いろんな理由で生きることができない人間がたくさんいんるんですよッ!かわいそうにッ!本当にかわいそうにッ!」ろうろうとまくしたてる看護師の免許を持った介護士。「それなのに、お前のような一切生きていく価値のない人間に限って長生きしたいなどと寝ぼけたことをほざくッ!ほざくなっ!これ以上、ほざくなっ!私は長年の看護師と介護士の人生で、長生きすべき人間が死に、早く死んでほしい人間がいつまでも生きているというこの世の矛盾に、さいなまれてきました。世の中間違っていますッ!早く死ねっ!早く死ねばいいのにッ!」
「なにを言っとるのかよくわからん〜。ええ〜ん。ええ〜ん」とうとう泣き出してしまう老人。
「それはつまり、お前が生きている価値がない人間だから理解できないということですッ!」
「ひ……ひどい!なんで断定するんじゃ〜。わしは虫も殺せない人間なのに〜」いちいち、めそめそする老人。おそらく、心の中がもうろくして弱くっているのであろう。覗いてる珍保長太郎はちょっとイライラして、うっかりミザリーを応援したくなってきた。
「でも、あたしは介護士!聖職です!厳格な倫理基準に基づいて生きています。だから、さくっと殺したりはしません。しませんけど……」冷血な顔で死にかけ老人の首に手をかけるミザリー。
「む……」ぎょっとする無力な老人。もともと顔色の悪い顔の血の気がさらに引いて群青色になる。
「脈拍が弱すぎて正確に測れないから、もっときつく首を絞めて血管の圧力を上げて測定するのは、医療的に正しいと思いますわッ!オホホホッ!」きゅ〜ッと年寄りの首を絞めるミザリー。
「むく……むく……」声にならない声をあげて、壊れた操り人形のように手足をばたばたさせる老人。
「それ、キュ〜ッとな!それ、キュ〜ッとな!」にやにやと笑うミザリーの、意外ほど力の強い指が死にかけ老人の首に食い込む。
 それほど力はあるように見えなかったが、ハードな看護師や介護士の生活を長くやってると、かなりの筋肉がつくのかもしれんな。窓の外で珍保長太郎は、意外な発見をしたので感心した。
「ほほう」例によって思ったことがつい口から出てしまう。やばいと思ったが、部屋の中のミザリーと老人の肩越しに目が合ってしまった。毒蛇が心優しいヘレン・ケラーに見えるほどの形相で、窓の外の珍保長太郎をにらみつける。
 ひええええええ。珍保長太郎は真っ青になりカエルのように動けなくなった。だが、ミザリーはにわかに微笑みを浮かべて、首を絞めていた指の力を抜いた。
「ほほほっ。血圧はかなり低いけど正常なようね。身体中にがん細胞がひろがって手遅れになっている以外は健康そのものです。あら、ちょっとブラックジョークだったかしら。うふっ」急に態度が豹変したミザリーにぼうぜんとする死にかけ老人。年寄りなので頭の切り替えが早くできないのである。
「お達者ですね」ミザリーはにこやかに捨て台詞を残して出て行ったが、その前に窓の外の珍保長太郎を、睨みつけるのを忘れなかった。
 じょじょじょよぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ。恐怖のあまり珍保長太郎はおしっこを漏らした。


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